不安の書 : リスボン市に住む帳簿係補佐ベルナルド・ソアレスの


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LivrodoDesassossego F e r n a n d oP e s s o a フェルナンド・ペソア リスボン市に住む帳簿係補佐ベルナルド・ソアレスの 不安の書 高橋都彦一訳 新思索社 FernandoP e s s o a L i v r odoD e s a s s o s s e g o フェルナンド・ペソア( 1 888-1 9 3 5 ) 雑誌「オルペウス j 刊行のころ 国 間∞噌何 じで勺白 田ダ・アスンサン通り 図ダ・ヴイトリア通り 国銀通り 回金箔師通り 固織物商通 り 出ノヴァ・ド・アルマダ通り 巴聖ドミンゴス教会図フイゲイラ広場回税関通 り 冨宮殿広場国造兵廠通り 匝サン・ペドロ・デ・アルカンタラ 図テージョ川 1 . 9 2 4 年のリスボン市街図 不安の書目次 告白 1`5 ベルナルド・ソアレスの序論︵断章︶ 紹介者フェルナンド・ペソアの序 第一部 第二部 6,17 3 ,6 22 10273 3 5 5 7 生前ペソアにより刊行されたか、あるいはそのために準備されたテクスト I 7 1 3 予め準備されたものではないが年代順に配置されたテクスト 一九︱︱︱一年 一九一五年 一九︱四年 一九一六年 8,9 22 一九三0年 一九︱︱︱︱年 I I I 一九二九年 一九一七年 22 一九二0年 I 27 19 18 74 36 3 1 30 3 1 3 1 一九三二年 一九三三年 144137128 249 生前に詩人の発表したもの 01 5o5 5 0 5 訳者あとがき 6 4 5 フ ェ ル ナ ン ド ・ ペ ソ ア と ﹃不安の書﹄ ︵高橋都彦︶ 1,6 4 4 日付のないもの ,。 一九三二年 一九三0年 一九一九年 一九︱四年 年代順のもの 41141. 題名のある文学的なテクスト 1 4 5 1 4 0 9 日付のないテクスト 一九三四年 I I I 517 I I . 414 417 529 第三部 138129103 418416415412 6 2 1 ,, 一 ヽ 、 , " ) ¥ ︵一︶ ︵二︶ 例 ︵⋮⋮︶作者が不完全のままにした箇所' f L iミr e s a s s o s s e g o ,( e t r a s , 1999) 適睦 f参后昭やしヤ。 odoD a u l o ,Companhia< s="" a="" op="" l="" a="" sl="" 章区分については、底本とは異なるものを採用し、また底本にはないが、各断章には便宜上通=""> -wi r o s a ,v 本書は AntonioQuadros( o r g . ) ,FernandoPessoaObraP P o r t o , o e t i c aeemP o l . II,( e s a s s o s s e g o " の全訳であるが、在chardZ o r g . ) , r m a o , 1986)所収のょ^L i v r odoD e n i t h( L e l l o& I 凡 (-]一︶ [⋮⋮]判読しがたい箇所 [?]この前の語句について疑義のあるとき ︻︼訳注 不安の書 紹介者フェルナンド・ペソアの序 リスボンには、品のよい居酒屋といった店構えの階上に、汽車も通らぬ田舎町の食堂さながらに野 暮ったく家庭的な雰囲気の中二階をそなえたレストランや飲食店がいくつかある。日躍日を除けば客 足の悪いそのような中二階に上がると、風変わりな人間、興味をひかない顔、人生における一連の傍 白に出会うこともまれではない。 落ち着いた雰囲気を求めて、また値段も手頃なこともあって、わたしは生涯のある時期そうした中 二階の常連になっていた。ところが、夕食をとろうと七時前後に出かけてみると、毎回のようにある 男に出会い、初めはなんら輿味も感じなかったのだが、徐々にその男の様予に心ひかれるようになっ た 。 三十格好の痩せぎすの男で、背は高いほう、座っているとひどく背が曲がっていたが、立つとさほ どでもなく、身なりにはそれほどではないにしてもいくらか無頓着なところがあった。ありふれた目 鼻立ちの蒼白い顔に、苦悩した様予が見ら礼たものの、といってことさら関心をひくわけでもなく、 それがどんな種類の苦悩を表わしているのかは窺い知机なかった窮乏生活や精神的な不安、辛酸 をなめつくした末の無関心から生まれる苦悩など、さまざまな苦悩を表わしているように見えた。 1 3 彼はいつも夕食を軽くすませると、決まったように自分で巻いた安煙草を吸った。居合わせた人た ちを異常なほど、だが疑わしげにというのではないが、尋常でない関心を示して観察した。とはいっ ても、じろじろ詮索するように観察するのでも、彼らの顔立ちをしっかりと記憶に留めようとか、性 格を窺わせる特徴を見極めようとかするふうでもなく、ただ単に彼らに興味をひかれたというかのよ うだった。その奇妙な様子にひかれて、わたしも彼に関心を持ち始めた。 さらに注意して彼を見るようになった。ある種の知的な雰囲気が曖昧にではあるにせよ、容貌を生 きいきとさせていることに気づいた。しかし打ち萎れた様子、ぞっとするような苦悩の表情がきわめ て規則的に彼の頻をおおうので、それ以外の特徴を見つけ出すのは難しかった。 たまたま、そのレストランのウエーターから聞いたのだが、彼がその近くの会社の事務員だという ことを知った。 ある日、窓の下の通りでちょっとした事件が起きた二人の男が殴り合いの騒動を起こした。中 二階にいた者は窓に走り寄り、わたしも、また今話題にしている人物もそうした。わたしは彼にさり げなく言葉をかけ、彼も同じ調子で応じた。彼の声は、期待してみてもまったく報われないので何も 期待しないというかのように、沈んで、ためらいがちだった。だが、夕刻、レストランで会うわたし の仲間の特徴をそのように描き出したところで、無意味というものだろう。 なぜか、その日以来われわれは挨拶するようになった。ある日のこと、たまたま二人とも九時半に 夕食にくるというおかしな状況によっておそらくそうなったのであろうが、われわれは何気ない会話 を始めた。しばらくして彼がわたしにものを書いているのかと尋ねた。わたしはそうだと答えた。少 1 4 し前に出た雑誌﹁オルペウス﹂︻フェルナンド・ペソア、マリオ・デ・サ"カルネイロ、ルイス・デ・モンタルヴォルによ り︱九一五年に創刊。わずか二号しか刊行されなかったが、二十世紀ボルトガル文学の発展に重要な役割を果たした︼のことを 話題にした。彼はその雑誌を褒めてくれ、それも手放しで褒めてくれたので、わたしは真実面食らっ てしまった。﹁オルペウス﹂に寄稿する者の美学は概して少数の者にしか受け容れられないので驚い た、と口に出してしまった。たぶん自分はその数