現代物理のための解析力学


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まえがき このテキストは“ 現代物理のための解析力学 ”を解説することを目的として書かれている.現代 物理学といってもあまりにも漠然としていて,何を目標にするのかを絞る必要があった.あまり欲 張ってもこの本のページ数制限と著者の力量を超えてしまう.そこで,電磁気力と重力を量子力学 的に取り扱うために必要な知識を解析力学の流れの中で説明しようと試みた.もちろん本格的に場 の量子論を解説することなど意図していない.著者自身が学生の時から感じていた,大学学部レベ ルから大学院で学ぶことへのギャップを少しでも埋めることができたらというささやかな希望を持っ てこの本を書いたつもりである. 大学院の学生の研究を指導する立場から,こういうことは入学前にある程度知っていて欲しいと 思う題材を取り上げた.現在の物理学ではゲージ対称性を持つラグランジアンから出発して自然現 象を説明しようという立場が主流である.ところが,そのために必要とされる拘束系の力学,特に ゲージ対称性を持つ力学系を大学で教わることはまずない.そして,大学院では知っていてあたり まえのようにすまされる.このような状況を何とかしたいという思いもあって拘束系の力学を題材 に加えた.もっとも,拘束系の力学を扱った教科書が無いわけではない.和書に限ったとしても良い 教科書はある.しかし,解析力学を拘束系という立場から取り扱い,しかも読みやすいレベルのもの が見当たらない.どれも本格的すぎるのである.もう一つ,解析力学と切っても切れない関係にあ るのが量子力学である.特に,解析力学と量子力学の間の理論構造の類似性を概観しておくことは 有益であると考えた.場の解析力学も当然題材に加えるべきものである.そうしなければ,ニュー トン力学で言えば,左辺だけ考えて右辺の力の場を考えないようなものであろう.ところで,力学 で粒子の運動を学習するときに“ 力 ”としてニュートン方程式の右辺に出てくるのはほとんどの場 合,重力である.にもかかわらず,そのあと“ 力 ”として勉強するのは電磁気力である.このこと に不満を感じる学生はどのくらいいるのだろうか.教える側としては,電磁気学で遠隔力の不自然 さを説き,電場や磁場を導入する際の後味の悪さは何とも言えない.ニュートンの万有引力にも同 様の不自然さがあるのに,これに言及しない気まずさである.このテキストでは,これを解消した いということもあって重力場の理論,すなわち一般相対性理論も題材に加えることにした. これらの題材を統一的につなぐキーワードとして「幾何学」を常に念頭に置いた.始めにラグラ ンジアンありき.それが解析力学の教えである.しかし,初めて学ぶ者にとっては,これが分かり にくい.そこで,ラグランジアンの必要性を幾何学的観点を強調することで明確にしようと努めた. そして,ハミルトン形式に見られる幾何学的構造が量子論にも現れることを示し,解析力学を学ぶ 動機を持たせようとした.テキスト全体で強調される概念は対称性という幾何学的な概念である. 対称性は,ときに時空の対称性であったり,もっと抽象的な空間の対称性であったりする.実際,電 磁気力と重力を記述する作用は対称性を指導原理として構成される.対称性を記述する言葉として, 微分形式やテンソル解析を習得することも目標としてもらいたい. このテキストの記述のスタイルをどうするのかも悩んだ点である.結局,このテキストでは厳密 性をあまり重視しないことにした.系統的な理論の展開という形もとらなかった.解析力学はそもそ も実際に応用するためというより美しい理論体系であり,論理的構成に適している分野である.し かし,おおかたの学生にとって抽象的な理論展開は我慢しがたいことも事実である.本書では,で きるだけ簡単な例を基に概念を説明し,その核心部分を理解してもらうことを目標とした.演習問 題もあえて付けなかった.物理を理解する上で問題を解くことの重要性は言うまでもないが,寝転 がって読んでも全体を読み通すことができて,だいたいの雰囲気をつかめるように書くことを優先 させた.最終的な目標を重力場の解析力学にしたのは全ての理論が解析力学の中で論じられ,量子 化へとつながるという点を強調したかったからである.最後の章は,少し数学的に難しいかもしれ ないが,できるだけ初等的な説明をこころがけたつもりである.それ以前の章でも最後の章で出て くる数学を意識して解説している.ただ,重力場のハミルトン形式のところはかなり計算を省略し た.このため,この部分に関しては独力で式を導出することは期待していない.全体の流れだけで もつかんでもらえれば幸いである. この本の原稿を丁寧に読んで多くの有益な指摘をしてくれた京都大学大学院理学研究科大学院生 の菅野優美さんに深く感謝します.また,この本の出版に際して色々とお世話になったサイエンス 社の平勢耕介氏に感謝します.この本を書くために休日も時間を割くことを許してくれた家族,特 に妻,具子に感謝します. 2006 年 1 月 8 日 ii まえがき 早田 次郎  目 第1章 次 ラグランジュ形式 1 1.1 運動の記述とニュートン方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 1.2 ニュートン方程式の限界 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5 1.3 ラグランジュ方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 1.4 ラグランジュ方程式の共変性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 1.5 拘束系とラグランジュ未定係数法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 1.6 拘束条件と配位空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 1.7 ダランベールの原理と拘束系のラグランジュ方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 1.8 ハミルトンの原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 1.9 対称性と保存則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26 1.10 保存則と自由度の縮減 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 1.11 ベクトルと 1 形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32 1.12 ベクトル解析から微分形式へ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35 1.13 ラグランジュ方程式の幾何学的定式化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41 第 2 章 ハミルトン形式 45 2.1 状態空間の変数に対するラグランジュ形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45 2.2 ハミルトン方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46 2.3 位相空間上のハミルトンの原理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51 2.4 正準変換 . . . . . . . . . . .
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